1945/Kampf Riesen Mars

※毎月25日更新

EP5.「Y号人型重機開発記」〜ハインケル社内部資料より〜

プロローグ

キューリング技師長:
「I号、II号はどうでもよろしい。大事なのは実戦向けに開発されたIII号、IV号のデータだよ、ケルペン君。この期に及んでまだロージック社は資料を送って来んのか。何ともケチくさい奴らだ」
ケルペン助手:
「彼らは人型重機の独自ルートでの販売権を要求しています。それも国防軍に内密にです。それに伴って必要となる我が社製部品の横流しを条件に、III号、IV号の資料をこちらに渡すと言って来ています」
キューリング技師長:
「横流しだと?あんな物を一体どこに売る気だ?まさかアメリカやロシアの赤軍じゃあるまいな」
ケルペン助手:
「売り先は分かりませんが、我が社の上層部は条件を飲んだようです。最も我が社も独自ルートでの販売を条件にしたようですが。ですので、資料はもうすぐ届くはずです」
キューリング技師長:
「我々も同じ穴の(むじな)と言う訳か、国策企業がこうなっちゃあ国が傾くのも時間の問題だな」
ケルペン助手:
「しっ、聞かれたらマズイですよ。ともかく我々はこのまま開発に関われるわけですから何も知らないふりをしておきましょう。それと今の話しとも絡むのですが、日本からの技術供与の件どうもナカジマではなくアイチからのようです」
キューリング技師長:
「ということは空冷エンジンか?今更だな。新型の四式戦であれば学ぶべき点はあったかもしれんが。日本が造る物はどれも繊細だが戦争やるには貧弱すぎる。全くもって日本兵には同情するよ」
ケルペン助手:
「さすがに口が過ぎますよ。この話は我々だけの心の中だけにしまっておきましょう」

上記内容は議事録より削除。

IV号人型重機解析

ハインケル社の新兵器開発局には一両のIV号人型重機が搬入されていた。ベッド状の台座にはロールアウトしたばかりの機体が横たえられており、その横にはこいつの骨格(フレーム)に使われた日本から供与されたと言う特殊金属のサンプルが置かれていた。
「こいつが例の金属か。嘘か誠かタングステンより堅く、重さは超々ジェラルミンの百分の一と言う代物だな、ケルペン君」
「そうです、こいつの精製加工はIII号、IV号に続きグルッフ社が受け持つことが決定しております。我々の仕事はあくまでY号人型重機の設計です。餅は餅屋に任せましょう」
「そう言う考えでは一流の技師にはなれんぞ、ケルペン君。餅屋の仕事をし易くしてやるにはまず良い米を作ってやらなければな。それをするのが一流の技師という物だ。それが分らんとな」
キューリングにたしなめられたケルペンは一瞬顔を引きつらせたが、すぐに平常心を取り戻した。
「怒られても落ち込まないのが君の良いところだ。ともかくこれは後回しにして、W号重機の分析に入ろうではないか」
そして設計部門の技師たちによってIV号の解体が始まった。
装甲を剥がしていたエルバッハ技師はいきなりその異常性に気が付いた。
「キューリング技師長、操縦系が繋がっていません。これでは何も動くはずがありません」
「だが動くんだ。私が操縦してここまで運んで来たのだからな」
そう答えたのは親衛隊から派遣された若い士官だった。見かけの年齢に比して大きすぎるその態度は前々から技師たちの反感を買っていた。
「あんたら技術屋はきちんと使える兵器を作りゃあいい。無駄口叩く暇があったらさっさと手を動かせ」
『こいつは何も分かってないな』キューリングはそう若い士官を評価すると、いつもの調子で吐き捨てた。
「小僧、何も分かっちゃあいねえくせに、えらそうな口を叩くな。お前は俺たち技術屋の手伝いで来てるんだ。ハッキリ言えば単なるお茶くみでしかねえ。そこで俺たちのやることを黙って見てろ」
辛らつな言葉に士官は顔を真っ赤にして怒り出した。
「貴様、俺がどういう立場の人間かわかっての言葉だろうな。俺は親衛隊だぞ、俺の胸先三寸でお前らの運命など簡単に変えられるんだ。その事を忘れるんじゃねえ」
売り言葉に買い言葉でキューリングが再び士官を罵倒した。
「万が一ドイツが負ければお前ら親衛隊は連合国からお尋ね者になる。先ず間違いなく戦犯に指定されて、うっかりすればその場で処刑されるだろう。今お前をかくまってやれるのは俺達だけだぞ、そうと分かったら俺らの為に働け!それこそ奴隷のようにな」
無理にも程がある暴言だったが、ここはキューリング貫禄勝ちだった。士官はキューリングの言った言葉に動揺を隠せなかった。「ちっ」と舌打ちをすると士官はそのまま部屋から出て行った。
士官が出て行くのを見届けると技師の一人がキューリングに声を掛けた。
「技師長、『敗戦』はさすがに不味いですよ。上に報告されたら首が飛ぶだけじゃ済みませんよ」
キューリングはその言葉に少し考えた。
「確かにそうだな。それなら報告される前に奴には消えてもらおう。実験中の事故と言うことなら親衛隊も何も言ってこれまい」
キューリングの言葉を聞いて、その場にいた全員が絶句した。
「まさか、目撃者の俺たちも事故死させるとか言わないでしょうね」
キューリングは苦笑した。
「冗談だ。本気にするな」
キューリングはそう取り繕ったが、その言葉を信じる者は誰もいなかった。『この人は本気であの親衛隊員を殺すつもりだ』その場にいた誰もがそう確信していた。それを知ってか知らずか、キューリングは平然と話を続けた。
「さて諸君、本題に戻ろう。操縦系の異常さは確認できた。他に何か気付いたことはないかね」
「トリアーです。発言します。こいつの装甲は四十ミリとなっておりますが、こちらをご覧ください」
そう言うとトリアーは重機の胴体部分にある分割部分を指し示した。
「これは溶接です、技師長」
「トリアー君、どういう意味かね」
「あくまでも推測ですが、これは単に二枚の薄いパネルを貼り合わせただけだと思われます。つまり表面の装甲と裏面の装甲の間が中空になっているのです」
キューリングはふむと頷きながら続きを促した。
「わざわざこんな事をする理由はいくつか考えられますが、もしかしたら材料が少ないがための苦肉の策であったか、あるいは四十ミリ厚の一枚板を精製する技術が無かったか、だと思われます」
さらにトリアーは続けた。
「ただ、この中空構造は考えてみると合理的です。被弾した際、一枚目の装甲を破った熱エネルギーがこの中空で分散されますし、衝撃も軽減されます。これはかなり良いアイデアですよ」「この金属は人の命を吸い取ると言う怪談のような噂も聞いています。事実、これに触れていると妙に疲れるのです。技師長、これは一体何なのですか?」
キューリングは再び考え込んだ。
「分かる訳が無いな。とてつもない金属だと言うことしか言えん。いや、もしかしたら金属ですらないのかも知れない。ヒヒイロカネ、別名オリハルコン。だが、これが我々の理解の外にある物だとしても、我々はこれを有効に使う術を知っている。今はそれで良しとしよう。さて続きだ。他に何か無いかね?」
「技師長、この車体では88o砲のような大型の火砲を操るにはいささか力不足、言葉を換えれば華奢過ぎるのではないでしょうか」
「うむ、良いところに気付いたな、ケルペン君。上からもより威力のある火砲を扱える車輌を作成せよと指示されている。従って次期人型重機にはこいつよりも強固な関節と衝撃に耐えうる強靭な骨格が必要となるわけだ」
さらにケルペンは続けた。
「IV号以前の車輌、III号人型重機には水密加工がなされていたという話を聞きましたが、IV号と大差ないデザインだとすれば水の抵抗が大き過ぎますし、水中でのコントロールは非常に困難であると予想されます。それにそもそも二足歩行の陸戦兵器に水密構造など必要なのしょうか?」
キューリングは迷わず答える。
「それは必要に迫られての開発だったか、あるいはテストであったかのどちらかではないかな」当たり前のことを聞くなと思いながらもキューリングは返答していく。
「開発の指示がV号ではなくVI号というのも気になります。別の所でV号の開発が進められているのでしょうか。そいつがどんなコンセプト、性能を有しているのか気になります」
この言葉にはキューリングはしっかりとした口調で答えた。
「他がどんな物を作ろうと関係ない。我々は最強の人型重機を開発する、それだけだ。よし、今日はこれで解散だ。明日から新型人型重機のコンセプトを練る。各自アイデアを持って来るように」

Y号重機開発記 後編

思索

キューリングはあるべきY号人型重機の姿を思索していた。
「軍からの要求を満たすのは当然の事だが、今回はそれ以上の成果を上げてわが社のイメージを向上させる必要がある。総統とのこれまでの確執を考えれば、今回のY号は相当画期的な物に仕上げない限り軍との関係改善は望めない。取り急ぎ、大型兵装を操るためにも先の会議で意見のあった車輌の大型化は必須だ。その上で生じた余剰マージンをどう有効活用するか」
実のところキューリングの頭の中には既にあるアイデアが浮かんでいた。だがキューリングは次の会議でそれを口にするつもりはなかった。ここはまず部下に考えさせ、そこにアドバイスを加えることで彼らからより高度な回答を引き出させるつもりだった。部下を育てることも彼の仕事のひとつなのだ。
ともかく、一日の仕事を終えキューリングは会社近くの自宅に戻った。彼にとってはこれからが本当の仕事とも言えた。食事を取りながら更なる思索の深みに落ち込むのだ。すでに家族は寝室に引きこもり、テーブルにはパンと冷めたスープが置かれている。
「さて、飲むか」
ワイングラスをテーブルに置くと、キーリングはワインセラー代わりの食器棚に並んだ数十本のワインから無造作に1本を引っこ抜いた。
「さて、今夜のワインは何かな。ふむ、シュタインベルガーか。そういえば軍にもシュタインベルガー好きの将校がいたな。名はなんと言ったか。まあ、良いか」
キューリングは政治や対人関係には秀でた能力を発揮したが、自分と関わりのない人間には全く関心を示さない男だった。例えそれが国家にとってどんな重要な人物であったとしても、自分の去就に関わらない人間の事などどうでも良い存在だと思っていたのだ。
キューリングは慣れた手つきでコルクを抜くと軽く栓の臭いを嗅いだ。ワインに異常が無いかを確認するためだ。爽やかな酸味を感じる果実の香りが鼻腔をくすぐる。
「ふう、落ち着くな。こういう時間が無ければ身も心も持たなくなる」
ワインをグラスに注ぐこの瞬間こそ、キューリングにとって最高のリラックスタイムであった。グラスを回して酸味と甘みを含んだワインの香気を引き出す。少量を口に含み、ゆっくりと飲み込むと喉を滑り落ちたワインが五臓六腑へと染み渡って行く。そういえば朝からパンはおろか水すら口にしていなかった。キューリングは改めて忙しかった今日一日を思い返した。
2杯目をグラスに注いだとき、キューリングの帰宅に気付いた妻がスープを温めて直して運んで来た。
「あなた、今日も音沙汰なしでしたよ。なんとか軍に口をきいてもらって息子が無事かどうかだけでも聞いてもらえませんか」
詮ないことをまた言うか、と妻の言葉にキューリングはため息をついた。
彼とて息子の身は心配だった。しかし問い合わせたところで軍機に関わることを教えてくれるはずはない。それにもし仮に分かったところで、息子の安全を確保できるわけでもなかった。
だが彼に出来ることもあった。「兵を死なさないための兵器を開発すること」である。思考は自然Y号の開発へと戻って行く。答えは既に見えている。それが製造できるかどうかは別として…。

VI号開発計画

翌朝、会議室に集合したメンバーの顔は実に様々だった。興奮して顔を紅潮させている者、眠気を押さえている者、平静を保とうしている者。だが彼らは皆一様に新しい重機のアイデアを披露する興奮を覚えていた。一方のキューリングは冷静そのものだった。彼はメンバーの顔をひと通り見回すと、テーブルに用意されたコーヒーに口を付けた。緊張のため誰も口を付けていないそのコーヒーを飲むと、キーリングは旨そうに「ふう」と大きくため息をついた。何ということのないその素振りを見て会議室にいたメンバーは少しだけ落ち着きを取り戻せたようだった。
「さて、新型人型重機の開発にあたり諸君の意見を聞かせてもらいたい。III号、IV号の分析を踏まえて、より強力で画期的なマシンとなるような提案を期待する。先ずはトリアー君、何か良いアイデアはあるかね?」
「ハイ、最初に指名して頂いて光栄です。昨日のお話で車輌の大型化は必須とのことでしたので、ここは思い切ってエンジンを二機搭載するというアイデアはいかがでしょうか?」
キューリングはこの意見を聞いて「有りだな」と即座に判断した。
トリアーは続ける。
「重火器の携行に合わせて車輛を大型化すれば当然駆動系に掛かる負荷も大きくなります。しかしこれに合わせてエンジンを大型化すればその分胴体の幅が大きくなり、それは更なる車輛の大型化に繋がりかねません。そこで、重量は増しますが小型のエンジンを二機搭載することでこの問題を解決するのです」
「トリアー君、その意見は正しい。すぐに採用しよう」
キューリングは即決した。これには提案したトリアーも驚いたが、この即断即決のやり方こそが彼の流儀でもあった。
「他に提案がなければ、次の者」
キューリングは更なる妙案を期待して他の者に意見を求めた。
「では、私が」
次に声を上げたのは普段あまり意見を口にしない、どちらかと言うと指示に従うタイプのミュラー技師だった。
『この男が発言するとは珍しいな、それだけこの新型重機の開発に期待していると言うことか』
キューリングはそう思いながらも指先で発言を促した。
「搭乗員を保護するためロールバーを設置するのはいかがでしょうか」
興奮のため頬を赤らめながら発言したミュラーの顔には、口にこそしなかったが「どうだ、画期的だろう」という自負が表れていた。そしてそのアイデアはキューリングの考えとも繋がるものであった。
「ふむ、ではそのロールバーの適切な設置場所をどこと考えるか」
ミュラーはその質問を当然と想定していたようで即座に答えを返した。
「頭部の横、肩の辺りは如何でしょう。ここに設置すればコクピットの開閉機構を変更することも可能です」
「どういうことか、皆にわかりやすく説明せよ」
提案と質問の応酬が続く。
「今までのIII号、IV号では搭乗員が乗り降り込むため上半身全体を持ち上げる必要がありました。これでは駆動部に掛かる負荷が大きく、ちょっとしたパーツの歪みで開閉そのものが困難になってしまいます。そこで開閉部を首から上に限定し、これを跳ね上げる形に改めれば駆動部に掛かる負荷も劇的に改善されます。その場合、唯一の脱出口である頭部を転倒時の衝撃から守るためにロールバーの設置は必須であると考えます。如何でしょうか」 「ふむ良かろう。だがその案、もう一つ利点があるな。誰か分かる者はおるか?」
キューリングは教師が生徒に教えるような優しい口調でメンバーに問いかけた。だがそれに返答できる者はいなかった。
「誰もわからんか。では説明しよう。ロールバーが設置されると言うことは高所から落下して転げるようなことがあっても、確実に頭部を守ることが出来ると言うことだ。つまり航空機からの落下傘降下が可能となる。これは人型重機に新しい用兵思想を取り入れることと同意だ。この点だけでもこの案は大きく評価して良い。この提案も採用だ。他に何か意見はあるか」
その後も各技術者から様々な案が披露された。実現可能な提案もあれば子供じみた発想のものもあった。だがキューリングが本当に狙っていたアイデアはついに誰からも提案されることはなかった。あまりに非現実的で技術的にも実現できないと考えられたためだ。
それは即ち『航空機への変形』である。
上空からの敵の早期発見と攻撃後の速やかな脱出。兵の生存率を高めるのにこれほど有効な手段はない。 最もキューリング自身もこれが簡単に実現できるものとは考えていなかった。だから会議では敢えて口にせず、まずはこのアイデアに必要な技術を新型のVI号重機で試すつもりであったのだ。
「よしこれでアイデアは出尽くしたな。上にはこれをまとめて報告しておく。明日から忙しくなるぞ、みんな今日はゆっくり休んで英気を養い給え。解散」

ハインケル社開発部部外秘資料より、「VI号重機開発計画試案」

サンプル金属「ヒヒイロカネ」は「オリハルコン」と同定。よって装甲材は「HH鋼」ないし「OR鋼」と呼称。
両脚部にエンジンを一つずつ搭載。
両肩部にロールバーを設置
両肘、両膝部分に大型モーターを設置
腰部背面にハードポイントを設置
操縦系は航空機と同じく操縦桿方式を採用、設置法については別項指示に準ず